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多様性(Diversity)こそ、エライ! [My Music Box]

トラン・クアン・ハイさんが、ユネスコの「無形文化遺産
の未来
」というシンポジウムで講演をされるというので、
先週末に奈良まで行って来ました。

若草山に向かう道.jpg


ユネスコの取組みとして、「世界遺産」はすっかりメジャーな
ものになりました。
一方で世界の伝統芸能や口承文化などの「無形文化遺産」
については、その保全の必要性も含めて認知度はまだまだ
高いとは言えず、これを後世に伝えていくためにはどうすべき
か、ということがシンポジウムのテーマです。

パネル・ディスカッションでは、アフリカ、日本、韓国、フィリピン
などの事例についてパネラー諸氏から紹介があり、その後
様々な問題についての討議、質疑がありました。

「人間国宝」のような制度は、現時点で日本と韓国にしか
ないというのは初めて知りました。無形文化遺産の継承に
は有用とのことで、今後他国にも展開されていくのでしょう。
またこれら無形文化遺産の継承者のインセンティヴの確保
や経済的な裏づけをどのように取り扱うかといったことなど
も非常にセンシティヴな問題であると認識しました。

また日本は無形文化遺産の「冷蔵庫」であるという比喩(※)
に対して、東欧出身の参加者から、「生活から乖離した状態
で冷蔵することの是非は?」という主旨の質問があり、とても
興味深く聞きました。

(※)有名な例としては、例えば雅楽は千数百年前に中国
大陸から伝えられたものですが、中国ではすでに消滅した
にも関わらず、日本ではほとんど当時のままの姿で現代に
伝えられている等。

この点について議論は深まらなかったのですが、おそらくこれ
は、文化継承の大きなジレンマの一つなのでは?
実際のところは、グローバル化(より正確には文化の西洋化)
があまりにも急速に進んでいるため、いま現存しているものを
急いで冷蔵(あるいは急速冷凍!)せぜるをえない部分が
大きいのでは?などと愚考します。

あと感じたのは、保護すべき無形文化遺産をユネスコが「審査」
するという手続きについての若干の疑問。
すなわち、国単位で選定された申請案件について、ユネスコで
その是非を審査するというプロセスにおいて、文化の選別が行な
われているのではないか?ということです。

ある一つの文化について、「保護する/しない」、ありていに言え
ば「残す/残さない」という判断は、一体誰がどのような基準で
するのか?ということが心に引っかかりました。
(更に言えばそんな判断をすること自体、そもそも正当性を持ち
 うるのか。。。ということ。)
もちろん何もせずに手をこまねいているよりは何かをしなければ
ならない訳ですし、ユネスコを批判するつもりはないのですが。。。

何と言ってもこんなブログで文句をたれる輩より、実際に汗をかき
無形文化の継承に尽力する方々が、何万倍も尊いのは言うまで
もないことです!


さてこのシンポジウムで一番盛り上がったのは、やはりトラン・
クアン・ハイさんの特別講演でしょう。

無形文化遺産の継承におけるユネスコの取組みと問題点(特に
著作権保護の問題)という硬いテーマでしたが、(難しい話は
少し流し気味にして)節目節目に氏の素晴しいパフォーマンスを
織り交ぜるというエンターテイメント性の高いものでした。

まずはスペクトルアナライザーを使用して、声を視覚化することに
よる「倍音芸(?)」。
ホーミーによる上方の倍音、チベット密教の倍音声明による下方
の倍音の違いが、聴覚だけでなく視覚で理解できました。

さらに「私は声で字を書く(Write)ことができます」と宣言して、
ホーミーで音の高さ(周波数)を上下させながら、舞台上の大型
スクリーンに「MINIMUM」と描き出してみせた時には、会場全体
がどよめきました。

その他、スプーンを使ったパーカッションのパフォーマンス等々、
氏のキャラクターを存分に発揮された素晴しい講演でした!

シンポジウムの後は、夕刻から東大寺大仏殿に場所を移して
「シルクロード 至芸の玉手箱」と銘打ったライブを見ました。
境内に心地よい風が流れ、幸せなひと時でした。

以前から「三番叟」は見たいと思っていたので、今回はよい機会
でした。今度は是非とも野村万作さんの三番叟を能舞台で拝見
したいと強く思いました。

また昆劇のパフォーマンスを行なったのは、蘇州の劇団。
蘇州は以前の住居の隣町ですので、自然と親近感がわきます。
特に二番手の女性演者の歌声は、かなり荒んだこのオヤジ心を
とろけさせるかのように甘く甘く夜空に響きました。

しかし一番気に入ったのは、アゼルバイジャンの伝統音楽である
「ムガーム」!
背景となる知識が全くないので、自分の持っている知見の範囲
で表現するならば、パキスタンの「カッワーリー」とトルコ系統の
音楽とのハイブリッドという印象でしょうか。

なによりアリム・カシモフさんの声は素晴しかった!
ヌスラット・ファテ・アリー・ハーン氏の声が大地を響かせ、揺り動か
せると表現するならば、アリム・カシモフ氏の声は、天に向かって
限りなく伸びていくというイメージです。
なんと言っても声の艶やかさが素晴しい!
まさに白眉の一言。

多分すべて即興の演奏だと思うのですが、複雑な構成やリズム
(なにせトルコ系統ですから!)を巧みにコントロールし、4人の
楽団をリードしていく様もスリリングです。

YouTubeにリンクを張ろうかとも思いましたが、「コピーライト」の
問題が懸念されますので、自制することにします。
私自身は、CDを購入することに致しましょう!


アゼルバイジャン ムガームの芸術 [Import CD from France] (AZERBAIJAN L'art du Mugham | The Art of the Mugham)








さてトラン・クアン・ハイさんに話を戻すと、氏の周りには
常に人が絶えることがなく、なかなか近づくことができ
なかったのですが、ライブのインターバル中にあいさつと
過日のお礼を言うことができました。

愛聴のCDにサインをいただくつもりだったのですが、
いつのまにかサインペンを紛失しており断念。
次回に持越しです。。。














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